大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和45年(う)1540号 判決

控訴人 被告人

被告人 桜井武夫

検察官 那賀島三郎

主文

原判決を破棄する。

本件を舞鶴簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人中西義治および被告人作成の各控訴趣意書記載のとおりであるから、これらを引用する。

弁護人の控訴趣意第一点および被告人の控訴趣意はいずれも原判決の事実誤認を主張するものであり、弁護人の控訴趣意第二点は量刑不当を主張するものであるが、右各論旨に対する判断に先立つて、まず職権をもつて調査するに、原審第四回公判調書には欄外裁判官認印欄に「吉川」と刻した認印が押捺されているけれども裁判官欄には裁判官の氏名が全く記載されていないことが認められる。もつとも同調書によれば同公判期日において裁判官更迭による公判手続を更新した形跡はなく、また原審第一回ないし第三回公判調書によるといずれも裁判官吉川義春によつて公判が開廷され審理が進められていること等に照らすと前記裁判官認印欄の認印も右裁判官吉川義春のしたものであることが推認されるのであるが、これはただ刑事訴訟規則四六条第一項の要件を充しただけで同規則四四条一項四号の要求する公判を開廷した裁判官の氏名の記載があつたものとする訳にはいかないのである。このように、公判を開廷した裁判官の氏名の記載を欠いた場合においてはそれが判決裁判所の構成に関する最も重要な事項であることにかんがみるとたとえ公判調書に記載されていない事項であるとしても、もはや他の資料による反証は許されないものと解すべきであり、したがつて右公判調書は無効であると解するのが相当である。そして右公判調書が無効である以上同期日の公判は如何なる裁判官によつて開廷されたものであるかを知るに由なく、結局法律に従つて適法に判決裁判所が構成されたか否かも証明がないことに帰するのはもちろん右公判期日において弁論の再開、示談関係書類の証拠調、検察官の意見陳述、弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述等判決の基本となる審理が行なわれたうえ直ちに判決の言渡を行つていることが右公判調書の記載から窺われるけれども右の各手続が適法に履践されたこともまた証明するに由なく、結局右公判調書の前記不備は判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反と言わざるを得ず、原判決はこの点においてすでに破棄を免れない。

よつて、右論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条本文に則り本件を舞鶴簡易裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 瓦谷末雄 裁判官 原清 裁判官 松井薫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例